📔 RESEARCH × HIGH SCHOOL

日記は心にいい——ただ、なかなか書けない。

日記を書くと気持ちが整理されて、心が軽くなる——そう研究で言われています。 でも、出来事を思い出して感情を言葉にするのは大変で、つい続かない。 この研究は、AIとの"雑談"からそっと日記づくりを助けるしくみを作りました。

▶ こんなふうに、雑談から始まる
今日はカラオケに行きました。
AIどんな曲を歌ったの? 印象に残った瞬間はあった?
懐かしい曲で、当時の記憶が一気によみがえった感じ。
SCROLL ↓
CHAPTER 01

なぜ、日記は 続かない?

日記を書くと、ストレスがやわらいだり自己理解が進んだりして、 ウェルビーイング WELL-BEING 心と体が満たされて、良い状態にあること。幸福感や安心感を含む、widerな「心の健康」を指す言葉。 が高まる——と研究で示されています(30日続けるとストレス反応が下がった、など)。それなら続けたい。でも、これがなかなか難しい。なぜでしょう?

Q

思い出して、言葉にするのが大変

何があったかを思い出し、そのときの気持ちを言葉にする。これは意外と頭も心も使う作業で、毎日続けるには負担が大きいんです。

Q

真っ白な画面に、最初の一行が出ない

「今日どうだった?」といきなり問われても、何から書けばいいか分からない。書き出しのハードルの高さが、続かない大きな理由です。

Q

決まりきった質問だと、合わない

従来の支援は、あらかじめ用意した固定の質問(例:21個)を出すだけ。その日の気分や内容に合わず、柔軟さに欠けていました。

Q

AIが踏み込みすぎても、逆効果

LLM LLM(大規模言語モデル) ChatGPTのような、大量の文章から学んで自然な会話ができるAI。質問を柔軟に作れる反面、使い方しだいで踏み込みすぎることもある。 は柔軟だけど、いきなり「なぜそう思ったの?」と核心を突かれると、かえって心理的に身構えてしまいます。

CHAPTER 02

いきなり気持ちは聞かない。
まずは 雑談 から。

この研究のアイデアは、深い問いの前に「目的のない 日常雑談 SMALL TALK 天気や好きなことなど、軽い世間話。深い話の前にワンクッション置くことで、安心して話せる空気をつくる。 」を置くこと。 軽い会話から少しずつ打ち解け、自然な 自己開示 SELF-DISCLOSURE 自分の出来事や気持ちを相手に話すこと。人間関係は軽い雑談から始まり、少しずつ深い話へ進む(社会浸透論)。AIとの関係づくりでも同じことが起きると分かってきている。 へ移ってもらう。同じ「深掘り」でも、入り方でこんなに違います。👇

よくある深掘り
旅行に行きたいです
AI行きたいと思った、きっかけは?

いきなり理由や核心に踏み込まれると、まだ打ち解けていないぶん身構えてしまう。心理的な負担が残りがち。

この研究の入り方
旅行に行きたいです
AIいいね、どんな場所に行きたいの?

まずは軽い雑談で受け止める。話しているうちに自然と打ち解け、気持ちの話へすっと移れる。

💬 雑談から「出来事 → 感情 → 気づき」へ

今日はカラオケに行きました。
雑談
どんな曲を歌ったの? 印象に残った瞬間はあった?
懐かしい曲を友達が入れたとき、当時の記憶が一気によみがえって、感慨深かったな。
深掘り質問
その瞬間、どんな気持ちだった?「ほっとした」「楽しい」「ちょっと切ない」だと、どれが近い?
懐かしいけど、ちょっと切ないかな。

いきなり感情を聞かず、まず出来事(どんな曲?)を会話で広げてから、感情へ。深掘りの質問も、答えやすいよう選択肢付きで2つだけ。最後に気づきまで言葉になっていきます。

CHAPTER 03

日記が できあがる まで

しくみは4ステップ。重い「書く作業」を、軽い「話す体験」に変えるのがポイントです。

01
✏️

出来事をひとことで

その日あったことを1〜2文だけ。たくさん書かなくていい——この"軽さ"が、最初のハードルを下げます。

02
💬

雑談しながら深掘り

AIが雑談で出来事や気分を引き出し、答えやすい深掘り質問 PROBING 会話の流れに合わせてAIがその場で作る、一歩踏み込む質問。固定ではなく、出来事や感情について2つだけ、選択肢付きで提示される。 を2つ提示。選んで進めます。

03
📝

日記を自動生成→自分で直す

会話から出来事・感情・気づきを整理して、AIが日記文を生成。自分で書き直せるので、納得できる「自分の日記」になります。

04
📚

ためて、振り返る

保存して一覧で振り返り。たまった日記はプロフィール USER PROFILE 過去の日記や事前入力から作る「その人らしさ」のメモ(好きなこと等)。次の雑談を、より自分に向けた話題にするのに使う。 になり、次の雑談がもっと自分向きに。

CHAPTER 04

使ってみて、どうだった?

大学生7名に2週間使ってもらいました(始める前に質問票で心の状態を確認し、つらいときはいつでも中断できる形での実験です)。 人数が少ないので結果は予備的ですが、いくつかの手応えが見えています。

🎧 「話を聞いてもらえた」感(AELS)

7点満点・高いほど「ちゃんと聞いてもらえた」と感じた度合い。先行研究との比較。

この研究のシステム5.22
5.22
先行研究(比較)3.23

🤝 システムへの親近感(IOS)

7点満点・高いほど「近しい存在」と感じた度合い。先行研究との比較。

この研究のシステム3.59
3.59
先行研究(比較)2.31
「聞いてもらえた」感(AELS)
5.22
↑ 先行研究の 3.23 より明確に高い
ウェルビーイング(始めた直後の変化)
d=0.36
向上の傾向(効果量 COHEN'S d / 効果量 変化の「大きさ」を表す数字。人数に左右されにくい。0.36 は中くらいの手前くらいの大きさ。 )
※7名の予備的結果。統計的な差は未確認

🗣️ 参加した人の声

「雑談から入ることで、気軽に振り返ることができた」
「話を聞いてもらえている感覚があり、安心して書けた」
「対話だと、頭の中を整理しやすい」

🔍 効きどころは "始めるとき"

ウェルビーイングの向上がいちばんはっきりしたのは、使い始めの1週目でした。2週目以降は変化が小さくなりますが、これは効果が消えたというより、 参加者が日記に慣れて、自分で振り返れるようになったためと考えられます。 つまりこのシステムは、続ける力を肩代わりするより、日記を"始める"心理的ハードルを下げる支援として効いた、というのが今のところの読み解きです。

うまく書かせることより、
安心して話せること

雑談から入って、ちゃんと話を聞いてもらえる。
それだけで、日記の"最初の一歩"は、ずいぶん軽くなる。

AIにできるのは、"正しい問い"を投げることより、"安心して話せる場"をつくることなのかもしれません。

CHAPTER 05

この研究、
どんな 学問 でできてる?

「AIと日記」の話に見えて、心理学から情報倫理まで、いろんな分野が組み合わさっています。

🧠

自然言語処理・AI

LLMにどう話させるか(プロンプト設計)。トーンを「友達」にそろえ、踏み込みすぎない問いを作る工夫がカギ。

💗

心理学

ウェルビーイング、社会浸透論、傾聴。人がどう打ち解け、どう気持ちを言葉にするかの理論が土台です。

🖥️

ヒューマン・コンピュータ・インタラクション

人とAIの対話や画面をどう設計すれば使いやすく、安心できるか。HCIと呼ばれる分野です。

🔬

認知科学

出来事を思い出し、感情を言葉にする——その「頭の中の働き」を理解して、負担の少ない設計に活かします。

📊

データ分析・統計

心理尺度のスコアや効果量、ログを分析して、効果を客観的に確かめる。少人数での結果の読み方も大事。

🔒

情報倫理・プライバシー

日記は繊細な情報。匿名化や同意、いつでも中断できる配慮など、人を扱う研究の「安全」を考える分野です。