吹奏楽部の合奏で、なぜ「もっと揃えて!」と言われるのか。
なぜそれが難しいのか。情報科学の力で、音を"見える化"して
練習をサポートしようとした研究を紹介します。
吹奏楽の合奏では、音程や音量だけじゃなく、 アーティキュレーション ARTICULATION 音の出し方・切り方のクセのこと。「ハッキリ」「なめらかに」「跳ねるように」など、同じ音でも吹き方を変えると印象が変わる。合奏ではこれを揃えることが超大事。 やフレーズの流れまで全員で揃える必要があります。 でも、これが本当に難しい。なぜか?
「もっとエネルギーをもって!」「停滞しないで!」
──こうした指導は、人によって受け取り方がバラバラ。
言葉の解釈に頼ると、結局統一できないんです。
演奏中、自分の音を客観的に聞くのは至難の業。 録音を聞き返しても「なんとなくズレてる気がする」止まりで、 どこをどう直せばいいかわかりにくい。
個人練習の時間が長い吹奏楽部。 管楽器に詳しい先生がいない学校も多く、 「一人で練習する時間」をどう効率化するかは大きな課題です。
1人だけ音を伸ばしすぎたり、音程がズレたりすると、 観客には全体がズレて聴こえてしまう。 逆に揃うと迫力や緊張感がガッツリ伝わります。
「だんだん大きく」という意味の クレッシェンド CRESCENDO 楽譜で「<」と書かれる、音をだんだん大きくしていく演奏指示。「強く弾く」ではなく「変化のしかた」を指定している。 。でも実際の演奏では、いつから音量を上げるか、どのくらいの幅で上げるか、ピークをどこに置くかが人によってバラバラ。 下の図を見てください。👇
最初は静かに、後半に向けて一気に盛り上げるタイプ。ドラマチックな印象に。
最初からグッと上げて、そのまま維持するタイプ。同じ「<」でも全然違う形に。
この2人、楽譜には同じ「クレッシェンド」と書いてあるのに、音量の変化は全くの別物。 指導者が「クレッシェンドを揃えて!」と言っても、そもそも全員のイメージが違うので、 合うはずがないんです。
この研究では、自分の演奏と「お手本」の演奏を録音して、 コンピュータで2つの違いをグラフにして見せるシステムを作りました。 仕組みはざっくり3ステップ。
マイクで自分の演奏を録音。波形(ギザギザの線)としてコンピュータに取り込みます。
ギザギザを滑らかにして、 エンベロープ ENVELOPE 音の「外側の形」のこと。波形の上端をなぞった曲線で、音の大きさが時間とともにどう変わったかが一目で分かる。 という"音の形"を抽出。これで音量変化が見やすくなります。
青がお手本、赤が自分。重ねると「あ、ここ膨らみすぎだ」「ここで音が足りない」と一目瞭然!
音の高さ(ピッチ)も同じように比較します。単位には セント CENT 音程のズレを表す単位。半音=100セント、1オクターブ=1200セント。「20セントずれてる」=「半音の1/5ぶん高い/低い」ということ。吹奏楽部ではおなじみ。 を使い、お手本との差を時間軸でグラフに。 どの音が高すぎる/低すぎるか、フレーズのどこで音程が崩れやすいかが、はっきりわかるようになります。
大学生7人(熟練者2人+練習する人5人)に、システムを使う場合と使わない場合で比較実験。 それぞれ5つのフレーズを5回ずつ吹いてもらいました。結果は……👇
「アクセントの強さや音の長さ、音程がズレるタイミングを"目で見て"把握できた」
「先生がいない自主練でこそ使いたい」
一見「音楽の話」に見えるこの研究、実はいろんな分野の知識がミックスされて生まれています。 気になる分野はある?
音の波を数学で分析する技術。エンベロープも基本周波数も、フーリエ変換などの数学が支えています。物理基礎で習う「波」の発展版!
録音した音声を処理して、グラフ表示するアプリを作る。PythonやWeb技術を使えば、こうしたツールは高校生でも作れます。
「どう見せたら使いやすいか」を考える分野。色の選び方、グラフの配置、アニメーション──全部研究対象になります。
音そのものを物理的に研究する学問。楽器がどう音を出すか、なぜ"音色"が違うかなど、奥が深い世界。
「どうやったら効率的に上達するか」を考える分野。今回のような練習支援システムはまさにこれ。
もっと進化させるなら、AIに「お手本演奏」を学ばせて自動でアドバイスを出すこともできるかも。